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エンジン降ろしメンテナンス作業

KSPファクトリーで行っている
NSXのエンジン降ろしメンテナンス作業に関して
どのような作業内容なのか? と言うお問い合わせが多いため
作業の流れと内容を紹介するページを作りました。

「10万キロでタイミングベルト交換」と言われるけれど
ベルトそのものは10万キロ程度で著しい老化は見られず、
本当に整備が必要なのは
カムシャフトを外さないと交換できないロストモーションスプリングや
バルブクリアランスをキッチリと調整すること
パッキンやホース類、クーラントの流れるホース類の交換であることが分かると思います。

カムシャフトを外さないと交換できない部品や
エンジン搭載状態では整備できない、あるいは作業が非常に困難である部分が多数有るため
搭載状態でベルトのみの交換作業では整備の手が届かず
トラブルの解決や予防にならない老化部分が多数有ります。

この整備記録を参考にする事で
本当に必要で有効な整備とは何なのか、何故そうするのかを理解していただければと思います

今回の整備車両は
走行約10万キロの100型NA1・AT車。

リアメンバー、ミッション、エンジンの
パワーユニットAssyとしてボディから降ろす整備であるため
ATでもMTでも作業内容は変わらない。

この車輌は新車時からワンオーナーで大事に扱われていたため
走行距離の割には騒音も少なく程度良好でした。

車輌をリフトアップしてオイル&クーラントを抜く
エンジンブロックのドレンにホースを繋ぎ
エキマニにクーラントがかからないよう排水し
腹下のパイプ部のドレンから抜くことで
ほぼ全てのクーラントを抜くことが出来る。

ブレーキライン、ABSセンサーを切り離し
リアナックルの
スタビリンク兼ショックアブソーバー取り付けボルトを外して
エンジンを降ろす準備をする

 

エアクリーナなど吸気側の部品や配管を取り外し
スターターやアース関連の配線を切り離す
エンジンからボディへ繋がっているラジエターホースとヒーターホースを取り外す

エンジンハーネスをメインコンピュータから外し
エンジンルーム側へ引き出す。
燃料配管やアース配線などを切り離す。

エンジンサポートフロントビームを取り外し、
エアコンコンプレッサーをエンジンから取り外し
ボディ側に縛り付けておく。
これは、エアコンガスを抜かずに作業を進めるため。

コンプレッサーを外したあと
フロントエンジンマウントを外してしまうとエンジンAssyで降ろせないため
エンジンマウントとフロントビームは再び取り付けておく。

エンジンが降りてからでは力が入りにくいため
この時点で
クランクプーリーのセンターボルトを緩めておく

これには
プーリーを固定しておく専用工具(右側のレバー)が必須で
プーリーが回転しないようにしておいてセンターナットを緩める。

NSXのクランクシャフトは
90度V6で等間隔爆発させるため捻りの入った変則的なクランクで
強大なトルクをかけるとネジリ方向に変形するおそれがあるため
プーリー固定ボルトを緩めるトルクを加えるのはプーリーだけで済ませる。

フライホイル側を固定してクランクプーリーボルトを緩めるのは絶対NG。

このボルト
締め付けトルクは25kg.mなんだけど、
緩める際には 固着している車輌では100kg.m近いトルクが必要
こんな過大なトルクを絶対クランクシャフトにかけてはいけない。

ここで使っているのは
ボックスレンチに1.5メートルくらいのパイプを溶接した手作り工具。
パイプの先端に
人がぶら下がっても緩まないくらい固着している事例が多い。

あらかじめリアハッチを外しておいて
チェーンブロックをエンジンに取り付けて
チェーンにテンションをかけておく

ここまでで、エンジンAssyがボディから降りて整備の準備が完了する。
エンジンルームの汚れがひどい場合
この時点でエンジンルーム内壁などをウェスで掃除し、
整備中のエンジンに泥などが降ってこないようにする。
エンジン搭載状態で強引に作業を行うとそういった配慮が出来ないため、
作業中カムカバー内部に泥やホコリが入り込む可能性が高くなる。

このあとは、ボディはリフトで目一杯上げた状態にして整備スペースを確保する。

リアメンバー取り付けボルトを取り外し
ボディをリフトで上げることでエンジンAssyとボディを分離する。
フロントヘッドがボディに干渉しやすいので注意。
宙吊り状態のエンジンAssyは不安定なので
チェーンブロックで持ち上げたまま古タイヤの上に着地させて安定させる。
以前「ホイルに傷が付きませんか?」と問い合わせがありましたが
もちろんホイル無しで、エンジン乗せ用に使っている古タイヤです。。

以後一連の整備はこの状態で行うことになる。
このページの追補版を作りましたが 後にメンバーを乗せる"脚"を造り
作業性は大きく改善しました

整備作業開始



まずは降ろしたエンジンを観察する。
初期型NA1の場合
走行距離5万キロ程度でヘッド周辺からオイル滲みが始まり
10万キロ近辺でこの程度なら良好な部類。

走行距離が増えて
エンジンを激しく回したあと
あるいは高速走行後にオイルの焼ける臭いがするのは
ヘッドカバーから滲み出したオイルが
エキマニや遮熱板に付着して焼けるためです。
発火などの重大なトラブルにはならないだろうけど、
経年老化を感じさせる部分なので
この機会に完治させて今後の10万キロの備えましょう。

上の写真でエアコンブラケットに流れた黒い物は後述するクランクアングルセンサーから溶け出した樹脂。
このエンジンは新車時から一度も開けていない状態だけど
ヘッドカバーからのオイル滲みがエキマニやエンジンマウント周辺まで回っている。
だけど、まだ軽傷の部類。

フロントベルトカバー周辺は
オイルによる汚れはないけれど、
右後輪の巻き上げた泥水などがエアコンベルトなどで飛び散るため
乾いた汚れがしつこく付着している。
これはオイルと違って落ちにくく掃除しにくい汚れ。

ホワイトガソリンと高圧エアの噴射で
カムカバー周辺の汚れを洗い流しつつ吹き飛ばす。

これも
カムカバーを開けた時や部品を外した時に
エンジン内部に汚れが落ちて入り込むのを避けるため。

こういった配慮も
エンジン搭載状態ではまず難しいでしょう。


 

プラグを全て抜いて、スターターにバッテリーを繋ぎコンプレッション計測。
6気筒全て計測し記録しておく。
整備後に再び計測するため、プラグは付けず必要に応じてプラグホールにキッチンペーパーなどを詰めておく。

補機類の取り外し これはVTECのカム切り替え機構へ油圧を送るスプールバルブと油圧センサー。
ここには高い油圧がかかっているためオイル滲みが発生しやすい。



スプールバルブは分解洗浄し
パッキンとフィルターを交換して下準備しておく。

ヘッド側の整備に入る

フロントバンク側

リアバンク側

初期型黒ヘッドのC30Aでは、アイドリング中リアバンクヘッドカバーからエアを入れて
ブローバイガスをフロントヘッドカバーからスロットル以降に吸気させるPCVバルブ機構になっているため
大量にブローバイが通過するフロント側ヘッド内部の方が汚れが付きやすい。
後期赤ヘッドになるPCVはリアバンクに移動したためとこれが逆になる。

ベルトカバーを外すと
タイミングベルトが全て見える。
この時点で
駒ズレやベルトテンションに異常がないかを確認。
過去の作業でベルトが一齣ずれて組まれていたり
異様にテンションが緩いことがあり、
事前にオーナーと打ち合わせして
異常なアイドリング振動やパワー不足感など
気になる点が有った場合には
コンプレッション計測と合わせて
ここで原因を確かめておく。

タイミングベルトを点検すると
10万キロ程度では全く損傷がないことが分かる。
ベルト背面の文字こそ
ウォーターポンププーリーとの摩擦で消えているけれど
殆どの場合
歯面やベルトそのものに異常は起きていない。

あと10万キロ走れるかと聞かれれば
おそらくは問題ないと思われるくらい。

クランクを上死点状態で
テンショナーを緩めてタイミングベルトを外し、
タイミングプーリーを外す。

クランクアングルセンサーの樹脂溶け出し・・
これはNSX定番の症状で
センサーに充填されている黒い樹脂が熱で溶けて流れ出す。
原因は果たして熱だけなのかは分からないけど、
数万キロ走行した車輌では
ほぼ確実にこんな感じになっている。
NSXのクランクアングルセンサーは2系統入っていて
片方がエラーを起こしても動作するようになっているらしいが
こんなになっても今までセンサー故障による実害は聞いたことがない。
だけど、これを見てしまったら交換したくなるので
エンジン降ろしメンテナンス作業では、センサーは定番交換部品にしています。

このあと
溶けて流れてベルトに巻き上げられて
周辺に飛び散った樹脂を除去するのはかなり大変な作業。

  

新品タイミングベルトを掛ける際に汚さないよう
周辺を掃除する。
ここは洗い油とブラシを使って地道に洗浄し
最後にパーツクリーナーで洗い流す。

メガネ型のゴムパッキンを外した2本のパイプは
オイルクーラー&エレメントに繋がる部分
ここにはゴミや異物が入らないよう注意。

 
 

順番通りボルトを緩め、カムホルダーを外しカムシャフトを4本とも外す。
カムの下に3個並んでいるのがVTEC機構が仕組まれたロッカーアーム。
両サイドが低速カム駆動用でセンターが高速カム駆動用。
スプールバルブから送られた油圧はこのロッカーアーム内部のピストンを動かし、3個が連結することで高速カム駆動となる。
カム左側先端に付いている黒いゴム部品がカムエンドシール。ここからのオイル滲み発生頻度が高いんだけど
カムを外さないと交換不可能な部品。
エンジン降ろしメンテナンス作業でカムシャフトを外すのは、カムエンドシールとロストモーションスプリングを交換するため。

カムホルダーへオイルを送るオリフィスを外す これはOリング交換のため。

カムホルダーに送られたオイルはカムシャフトにシャワーのように降りかけて
カムとロッカーアームの潤滑を行う。
オリフィスは各カムシャフトに対して1個あるので4カ所。

 

シーリングボルトを外し、適当なボルトをねじ込んでロッカーシャフトを引き抜く。
スプールバルブからの油圧はこのシャフトを通ってロッカーアームに伝わる。シャフトにはそのための穴が見える。

ロッカーシャフトを抜くと
ロッカーアームはフリーになるので
3個をバラさないよう、ピストンが抜けないようにしておいて
ロストモーションスプリングの交換作業に入る。

ロストモーションスプリング
     左が後期型         右は前期型
前期ではこのカートリッジ形状の中にスプリングが仕込まれている。
NSXはDC2と同様のVTEC機構の第一号を採用しているため
こういった部分に関してかなり慎重な造りを採用している。
だけど、バネ単体で良いなら当然その方が安価だし、
スプリングとしての耐久性は高いからエンジン降ろしメンテナンスでは後期スプリングへの交換を必須で行っている。

ロストモーションスプリングは
低速カム駆動の時に
センターの高速用ロッカーアームをカムシャフトに対して密着させて動作が追従するよう押しつけているバネ。
この部品は老朽化が激しく
スプリングがヘタると高速用ロッカーアームがカムの動作に追従できず踊るため
低速カム駆動時にヘッドからガシャガシャと大きな騒音が発生することになる。
バルブクリアランス調整を行ってもヘッドの騒音が解消しない場合
ほとんどの場合原因はこのロストコーションスプリングのヘタり。
前期型では
カートリッジ型の中にスプリングが仕込まれているタイプだったけど、LEV以降の後期になってスプリング単体の形状に簡素化された。
当然ながらバネは外径が大きな方が耐久性が高く取れるし
後期の方が単純形状なため部品も安価。
ただし、全長が若干異なるため
前期ヘッドに使うためにはスプリングにスペーサーを入れて長さを適正値に合わせる必要がある。

部品洗浄

エンジンから外した部品を
組み立て前に洗浄する。
洗浄に使うのは洗い油。
特にカムシャフト周辺部品はオイル通路が細かく巡っているため
目詰まりが無いように十分洗浄し
高圧エアで通路を完全に通ることを確認する。

 
 

カムシャフトのエンドシール部分は
スプールバルブに次いでオイル滲みが発生しやすいところなので
古いパッキンを除去して下地を調整する。



ヘッドカバーは洗い油で洗浄後脱脂して
マスキングして塗装する。
塗装は、シャーシブラックを薄く吹いてやるだけで
結晶塗装の風合いを維持したままキレイに塗ることが出来る。
こうすることでエンジンルームの美観が大いにアップする。
裏面に残った古い液体ガスケットもキレイに除去する。

作業も折り返し だけどここからが本当の整備作業。バラした部品を調整しつつ組み立てていく。

ロッカーシャフトを入れて
新品アルミワッシャに交換してシーリングボルトを規定トルクで締める。

   

カムエンドシールを取り付ける
ここで手を抜くとすぐにオイル滲みが発生するので
完全に脱脂して液体ガスケットを塗布しエンドシールを取り付ける。

ロッカーアームや
カムとの摺動面にエンジンオイルを塗布する

 

カムシャフトにオイルシールを取り付けて
エンドシールに差し込みつつヘッドにカムを載せる

カムシャフトにもエンジンオイルを塗布する

カムエンドシール上側に液体ガスケットを塗布する

 

カムホルダーへオイルを送るポートのOリングを新品にして カムホルダーを取り付ける。

カムホルダーを仮組みし
オイルシールを着座点まで押し込み
カムホルダーを順番通り指定トルクで締める。

ウォーターポンプ取り付けボルトを外しポンプを外す。
ブロックの雌ねじにネジロック剤が残っているためタップで修正する。

左写真でガムテープを貼ってあるのはオイルレベルゲージの取り付け穴。

タイミングベルトを取り付ける下準備として
出来る限りエンジン側を掃除して
オイルや汚れ、クーラントなどが残らないようにする。

全ては
新車製作時並のクリーン状態で
タイミングベルトを汚さずに取り付けるため。

新品のウォーターポンプを取り付ける
このポンプは 途中から設計変更が入っていて
ポンプからリークしたクーラントがカバー外部に確実に排水されるよう
カバーと共に一部形状が変わっている。
そのため、ポンプとカバーはセットで交換することになる。

クランクアングルセンサーも新品を取り付ける。
新品ではこんな感じに樹脂が充填されている
しかし、これも数万キロ走ると再び溶けて流れ出す。
溶け出しても正常動作しているので
果たして新品にするメリットがあるのか分からないけど
見てしまったら交換したくなる。



エンジン内側に付くタイミングベルトカバーも洗浄脱脂して
新品のゴムシールを取り付ける

 

ベルトカバーを取り付けて指定トルクでボルトを締める。
ベルトカバーのゴムパッキンはシリンダーヘッドに密着して、ブロック側からの水や異物の侵入を防止する構造。
それにしても、タイミングベルトというのはここまで守られている構造に感心する。

クランクシャフトに
フランジとクランクプーリーを取り付ける

カムシャフトにカムプーリーを取り付ける

プーリーを専用工具で固定して
センターのボルトを指定トルクで締める。


なお、カムカバー内部のボルト類に関しては
万が一にでも抜けたりすると
ベルトに巻き込まれて大事故に繋がるため
全数必ずトルクレンチで締め付けトルク管理して組み立てる。

これもエンジン搭載状態では非常に困難

新品のテンショナープーリーを取り付ける。
グリス封入タイプのベアリングを使っているため
経年老化を考えて
これも必須交換部品

新品タイミングベルトを汚さないよう注意しつつ
各プーリーに掛けていく。

どんなにキレイに掃除したつもりでも
周辺には砂やホコリは残っているため
ビニール袋から開封した新品ベルトは
時間をかけずに一気にプーリーへ掛けてしまう。

NSXのタイミングベルトは
4本のカムをベルト1本で駆動しているため非常に長い。
フラフラさせていると周辺に触れて汚れる可能性が高いので
この作業は二人で行った方が確実。

エンジン搭載状態でベルト交換作業を行うと
ほとんどの場合
新品ベルトはこの時点でオイルやクーラントで汚れることになる。

ベストコンディションで組まれ10万キロ走った新車時からのベルトと
新品だけどオイルで汚れたベルト・・
果たして今後の耐久性に対してどちらが有利か?

部品を目の前に見て、
自信を持って確実に作業ができること。

これが
KSPではベルト交換の際にエンジンを降ろして作業する大きな理由。

  

プーリーにベルトを掛け終わったら、テンショナープーリーにスプリングを繋いで弛みを取る

クランクプーリーを上死点に固定した状態で
カムプーリーのタイミング合わせ位置を確認する。

クランクプーリーが回らないよう固定して
カムプーリーをフロント排気、吸気、リア吸気、排気と順番に逆転させて
各プーリー間のベルトを張って
リアバンク排気プーリーとクランクプーリー間の
ベルトの弛みをテンショナープーリースプリングに吸収させる。
これでベルトに適正テンションがかかった状態になる。

これも
エンジン搭載状態では困難な作業。

なにしろ
取り付け状態のカムシャフトはバルブスプリングの反力で回転するので
前のプーリーを固定しつつ対象プーリーを左回転させる必要がある。

弛みが取れて
適正テンションになったところで
テンショナープーリーを指定トルクで固定する。

オートテンショナーではないので
NSXのタイミングベルトの張りはこのときベストに調整するだけで
次の交換時期まで調整することは出来ない。

タイミングベルトでカムシャフトを駆動する方式では
このベルトテンションは非常に重要

適正なテンションがかかっていないと
駒飛びの原因になりやすい。

通常走行中にエンジンが逆転することはないけれど、
車輌がスピンしたり、
あるいは上り坂でエンストしたりすると
瞬時にエンジンが逆転させられる場合があり
ベルトの張りに弛みがあると
瞬時にベルトとプーリーがズレてコマ飛びする場合がある。

また、張り過ぎも当然NGで
ベルトに過大なテンションを掛けると
ベルト周辺から唸り音が発生したり
ベルトの早期寿命を招いたりする。

  

クランクシャフトが上死点状態で
各プーリーの合いマークが全て合っているか再度厳重に確認。
これで、タイミングベルトの交換作業は完了。

バルブクリアランス調整

油圧自動調整機構を持たないNSXでは
バルブクリアランス調整はこの機会にしかできない重要な作業。

調整には左の2本の工具がSST(専用工具)として
ホンダから販売されている。
ボックスレンチの中にマイナスドライバーを入れて回せる構造。
真ん中にあるのは使い込まれたスキマ調整用シックネスゲージ

バルブクリアランスを適正に調整することは
吸排気のバルク開閉タイミングに影響するため
事前のコンプレッションチェックで各シリンダー間で圧縮圧力に差があっても
この作業で改善する場合が多い。

また、当然ながら経年老化で広がっているクリアランスを適正値にすることで
ヘッドからのメカノイズは著しく減少して静かになる。

  
ロッカーアームの調整ネジロックナットをSSTで緩めて、
シックネスゲージを
カムシャフトとロッカーアームの間に差し込んだ状態で
センターのマイナスネジを回しクリアランスを適正値にする。
ロックナットをスパナで締めると若干クリアランスが変わるので
締め付け時の変化を考慮して
何度も調整しつつベストに追い込む。

ロックナットをトルクレンチで指定トルクで締める。
この時点でまたクリアランスが変わることがあるので
もう一度シックネスゲージで確認する。

24バルブ全てを調整し
クランクシャフトにレバーを掛けてカムを回しながら
再度全てのポジションのクリアランスをを確認する。

この作業を完璧に行うためには数時間かかる。
これも、このレベルの慎重さを求めると
エンジン搭載状態で行うのはほぼ不可能
まず、リアバンクの作業でトルクレンチが振り回せない。

そして新品のタイミングベルトを絶対汚してはいけない。

洗浄したベルトカバーの裏側に
新品ゴムパッキンを入れて
エンジンに取り付けていく。

ウォーターポンプカバーは
ポンプと共に新品にする。

ヘッドカバーも新品パッキンを入れて
エンジンに取り付ける。

パッキンがはみ出ずに確実にはまっていることを確認し
ヘッドカバーのナットを全て規定トルクで締める。
取り付け時には
要所要所液体ガスケットを併用する。

オイルクーラーを取り付けて
新品のクーラント配管類を取り付ける。

オイルレベルゲージ、エアコンコンプレッサーブラケット、エアコンベルトテンショナーなどを取り付ける。

新品のクランクプーリーに交換。
このプーリーは破損事例が多いため交換推奨部品にしている。
AT用とMT用でセンターの六角穴が異なるため
専用工具もAT用とMT用で分かれている。
このボルトの締め付けトルクは25s・m。 外す時ほどではないけれど
大きなトルクをかけるので、クランクシャフトを守るため
必ず専用工具でプーリーを固定してナットを締める。

右の写真はMT車の例だけど、
クランクプーリーには回り止め用の六角穴があり
ここに専用工具を入れて回り止めにする。
そして、工具の中心穴にボックスレンチを入れてセンターナットを締める。
こうすることで、ボルトの締め付けトルクがプーリーで完結するため
クランクシャフトが捻られることがない。

ヘッドにスプールバルブを取り付け
ここはゴムシールのみが原則だけど
完全に脱脂して慎重に液体ガスケットを併用した方が
長期間オイル滲みを避けることが出来る。
ただし、万一剥離したシールがオイル通路へ流れ出すと
VTEC機構にトラブルを起こす可能性があるため
使うなら極めて慎重に。

コンプレッション計測&プラグ取り付け

ここまで来たら
分解前と同様に スターターにバッテリーを繋いでエンジンの圧縮圧力を計測する。
ほとんどの場合 各シリンダー間でバラついていた圧縮圧力は均等に近くなる。
これは、バルブクリアランスの適正化によるもの。
圧縮を確認し、問題なければ新品のプラグを取り付ける。
プラグは純正のPFR6G−11を使用。 プラグは色々使ったけど、これが一番良い。。

サーモスタットを新品交換する。
これもエンジン降ろしメンテナンスでは必須交換部品。
過去にオーバーヒート気味を経験したエンジンでは サーモスタットが開いたままになっている事例は多い。

エンジンからボディへ繋がるクーラント配管
スロットルなどに繋がる全てのクーラント配管を新品交換する。

これも
エンジン降ろしメンテナンスでは必須交換部品。

エンジンマウント点検

NSXのエンジンマウントは前後左右で4個。
AT用とMT用では部品は異なる
左右マウントで重量を受けて、前後マウントで
加減速のトラクションを受ける。
エンジン降ろしメンテナンスではチェックは行うけど、
オーナーからの依頼
あるいは現物を確認して要交換と判断すればマウントも交換。
これは右側マウント
結局4個のマウント全て亀裂が入っていたため全て交換した。

長距離走ったNSXでエンジンマウントの老化は
ゴムが完全に切れてセンターのアルミシャフトが抜けてしまうくらいボロボロの場合もあれば
この車輌のようにゴム表面に多数のヒビが入っている程度の場合まで様々。

新品交換すると
アイドリングなどでボディへ伝わる微振動が減って
新車時のフィーリングに近づいていく。

一連の整備が終わり
コイルやベルト
補機類を全て取り付けて
エンジン搭載準備が完了する。


降ろした時と逆の手順で
ボディにエンジンを搭載する。

タイヤをどけて
ジャッキで支えながらチェーンブロックで吊り上げて
ボディをリフトで降ろしていく。

無事にエンジンがボディに収まって
メンバー&マウント類のボルトを締めて搭載完了
フロントビームを外してエアコンコンプレッサーを取り付ける。

降ろした時の逆の手順で
エンジンハーネスを室内に入れてメインコンピュータと繋ぐ。

オイルパンパッキン交換

ここで最後のエンジン側整備作業
オイルパンパッキン交換を行う。

カム周辺の清掃に使ったパーツクリーナーなどが
オイルと共にオイルパンに降りているので
老化したパッキンの交換作業をしつつ内部を洗浄する。

フロントビームを外し、
エキマニのフロントバンクを外してオイルパンを取り外す。

C30A&C32Bでは
オイルパンとシリンダーブロックの間に
ゴムパッキンを使っているため
これの老化や変形でオイル滲みを起こすことが非常に多い。

また、右上の写真のようにオイルパンの取り付け面には突起があって
これがゴムパッキンの穴に入る構造になっているため
オイルパン取り付けボルトを締めすぎると突起が潰れてしまうため
適正トルクで締めたとしてもパッキン変形からオイル滲みが止まらず
さらにはゴムのパッキンが切れたり、
オイルパンの取り付け面が変形してしまうので要注意。
こうなるとオイルパンの交換しか改善方法はない。





この車輌では新品のオイルパンに交換した。
普通のクルマでは滅多にないオイルパン交換だけど、
NSXではかなり高頻度で行っている。
過去の作業で締めすぎていると ほとんどの場合は
パッキン交換してもオイル滲みが止まらない

整備書の記載ではオイルパン取り付けボルト&ナットの締め付けトルクは1.4kg.mだけど、
これはとんでもない誤記だと思われる。
そんなトルクで締めたらパッキンは一撃で潰れてオイルパンも変形してしまう。
締め付けはトルクレンチを使って、パッキンが潰れずオイルパンが変形せず、ボルトが緩まずの適正値を考えて均等に締める。

オイル滲みが持病のNSXだけど、
取り付け面を完全脱脂して液体ガスケットを併用してオイルパンを組むと、数万キロ走行してもオイルが滲まない状態が維持できる。
だけど、
エンジンを新組みしたときのようにブロックを逆さまにして完全脱脂状態でオイルパンを取り付ける事は出来ないから、
今回のような作業方法では、整備後 走行距離を重ねるに従ってどうしても経年変化でパッキン隙間からオイルが滲みやすい。

これを出来る限り抑えるため
慎重にパッキン交換作業を行っていく。

また、オイル交換頻度が多い車輌では
オイルパンのドレンネジが荒れていたり、座面が変形している場合も多く
この際 オイルパンを新品にしてしまおうと言うオーナーは多い。

エキマニ、フロントメンバーを組み立てて排気系を取り付けて
エアクリーナーなど吸気系を組み立てて、新品エレメントを着けてエンジンオイルを規定量入れて
エンジン側の作業はおおむね完了となる。

ラジエター&ヒーターホース交換



フロント ラジエター高温側ホース



これはエンジンオイルクーラーへのクーラントホース
経年老化で膨潤してブヨブヨ・・

エンジン降ろしメンテナンス作業では
クーラントが流れる殆どのホースを新品交換することを標準作業に入れています。
NSXで
破損の頻度が最も高いのは、エンジンルームでエンジンとボディを繋いでいる高温側ラジエターホース。
これは、走行距離5万キロ程度で破裂する事例が多数ある。
次が、ボディ下に3本並んでいるホースの高温側 これは12万キロ程度で破裂事例が多い。
ヒーターホースを含めて全て新品交換。

エンジンルームのファンは
オーナーのリクエストがあれば残すけれど、
殆どの場合 この作業の際に撤去してしまう。
元通り取り付ける場合には分解掃除して再取り付け。
しかし、このファンはNA1の130型以降になって廃止されていること 
SやRでは付いていない事を考えても 気温の高い輸出先への対応か、
初期型故に考えすぎで取り付けられたモノだと思われる。
走行中に関しては ファンが無い方がエンジンルームへの通風は
良いだろうから殆どの場合は撤去してしまう。
取り外した事による電気的エラーなどは発生しない。

ファンを外すと
フェンダー内部に向かってポッカリと穴が開く
130型以降はこんな感じになっている。

このあと
クーラントを入れてエンジンを始動 冷却水経路のエア抜き
オイル滲みなど問題ないことを確認して一連の作業は終了になる。
写真を撮っていなかったので紹介していない整備ポイントや
紹介していないノウハウ部分の作業も多数あります。

作業開始から所要時間は通常で4〜5日ほど 追加作業や部品手配が重なった場合はもう少しかかる。
急げば時間短縮が可能な作業だけど、
このメンテナンス作業ばかりは、時間よりも内容と結果を優先しているため急がないことを基本としている。
費用は基本工賃でおよそ25万円 基本使用の部品代が20万円ほど。
作業内容を考えると非常にリーズナブルだと思う。

ロストモーションスプリングとバルブクリアランスの適正値調整で
シリンダーヘッドからのメカノイズは著しく減少して静かになる。
各シリンダーのコンディションが揃うのでアイドリング振動が減少する。
オイルの焦げる臭いが消える

この整備を行ったオーナーからは
実に満足度の高い作業だったと言われます。

一連の作業紹介で
このメンテナンス作業がどれだけ手の込んだことを行っているか、
エンジン搭載状態でのタイミングベルトのみの交換作業では不安が残る事と
手の行き届かない部分が多数残ることが分かるかと思います。

実際問題
走行距離で10万キロ程度では
タイミングベルトは殆ど老化を感じさせない部品です。
それよりも、周辺のホースやロストモーションスプリング交換、バルブクリアランス調整など
整備の手を入れたい部分は多数あります。

走行距離が10万キロに近づいたとしても
タイミングベルトは10万キロで突然プッツリ切れるモノではないから、
いま、整備の予算が組めないなら
あと数万キロ走ってしまってもかまわないので
予算を組んで信頼できる方法で作業を行った方が間違いありません。
走行距離が増えたからと言ってベルト交換をあせる必要はないですね。

これまでの走行距離に対する不安と不調をリセットし、
これからの10万キロに備えるための整備の手を入れてやることが
このクルマと長くつきあう上で最善だと思います。

追記
エンジン降ろしメンテナンスの最終的な費用は 内容によって変化します
年々 新たなトラブル事例も発見されたりして
予防的処置を行った場合には費用も加算となりますが
整備内容は コンディションを加味しつつ入庫時に相談して決めることになります。
また、純正部品は毎年値上げを続けているため
これも入庫時に再見積となります。

エンジン降ろしメンテナンスは
特に予約金などをは無く キャンセル自由という条件で予約を受けているため
現在 多数のユーザーから予約をいただいて
順番待ちが数年単位になっています
さすがに
この状況は改善しなければと
ファクトリーの設備強化などを行っていますが
この整備は 手を抜かずじっくりと行う内容のため
予約後 着手に非常に時間がかかることになると思われますので
当社でのこの整備を検討されている方は
余裕を持って予約いただければと思います。

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